ブラジルワールドカップで見えた6つのブラジル経済事情

ブラジルワールドカップで見えた6つのブラジル経済事情

サッカー界で常にトップに君臨する国、ブラジル。そこで行われた2014年ブラジルワールドカップでは、テレビやネットを通じて、試合だけではなく、ブラジルという国の政治、経済、社会が様々な角度から伝えられました。ブラジル経済は今どんな状況になっているのでしょうか。そこで今回は、大会中に現地滞在した筆者の経験も交えて、サッカーワールドカップがブラジルという国にあたえた影響を詳しくお伝えします。

 

ブラジルワールドカップで見えた6つのブラジル経済事情

 

1. ワールドカップまでのブラジル経済

ワールドカップ開催が決まった2007年頃は、ブラジル経済が大きく成長している時期でした。これを牽引したのは鉄鉱石、大豆、石油などの一次産品です。輸出の半分弱を占めるこれら一次産品の価格が2000年以降大きく上昇したことで、ブラジルの経済成長が実現しました。しかし、2008年のリーマンショック、最大の需要国であった中国の経済の減速などにより、資源価格の上昇が頭打ちになり、ブラジルの成長率は低下しました。そして、貧富の格差も顕著になりました。2011年に就任したルセフ大統領は、低所得層向けの所得再配分を重視したバラマキ型の政策を進めましたが、資源依存経済からの脱却は進まない中、インフレが進み、教育、医療などの社会福祉に優先してワールドカップに巨額の投資を行ったことに対する不満が国中に渦巻いている状況でワールドカップ開幕を迎えました。開幕直前にサンパウロの街頭で暴徒が石を投げている様子のテレビ報道をご記憶の方もいらっしゃるでしょう。

 

2. ブラジルの物価は高い

現地に着いて「やはり」という感じでした。ブラジル人たちが日常買うモノ、利用するサービスの料金は、大雑把に言って、日本と同等から5割安いくらいという印象を受けました。しかし、ブラジル国民一人あたりGDPは日本の3分の1くらいです。これでは生活が苦しいでしょう。いくつか挙げましょう。1レアル=45円で計算します。

☆リオデジャネイロの空港から街の中心までのエアコン付バス料金(所要約50分):540円

☆サルバドールの空港からタクシーでホテルへ(所要約8分):1,125円

☆リオデジャネイロの地下鉄(どこまで行っても料金一律):158円

☆リオデジャネイロのチェントロの街角のバーで飲むフルーツ100%ジュース:315円

☆フォズ・ド・イグアスのスーパーで500mlのペットボトルの水:85円

☆リオデジャネイロの街角のバーで500mlのペットボトルの水:135円

☆リオデジャネイロで地元の人たちが大勢集まるレストランの定食&ビール:1,125円
(日本の安めの定食屋で1,200~1,500円相当のもの)

 

3. ワールドカップ期間中のブラジルの様子

ブラジル代表が勝ち進んだこともあって、暴動もストライキも収まりました。一方で、この種の国際スポーツイベントにつきものの祝祭ムードはほとんどありませんでした。街中でサッカーに盛り上がっていたのはFIFAの設けたファンフェスト会場くらいで、ブラジル代表の試合がある日ですら、街中で騒ぎまわるブラジル人の姿をほとんど見かけませんでした。02年の日本、韓国、06年のドイツとは明らかに異なりました。心配されていた治安も、ファベイラ(貧民街)などの危ない場所に近づかなければ問題ない状況でした。

 

4. ワールドカップ開催が与える国への影響

一般的に全世界から注目を集めるスポーツ大会を主催した国にもたらされるメリットとしてよく言われるのが、

1. 国威が発揚し、国民が自国への誇りと自信をもてるようになる
2. 国民の気分が高揚し、国内消費拡大につながる
3. 観戦に訪れる外国人客からの収入が増える
4. スタジアムなどの設備、道路、鉄道などのインフラ投資が進み雇用が増える

ということです。
ブラジルの場合どうだったか。確実に期待通りだったのは③でしょう。1,2については、ブラジル人の大勢はこの大会に熱狂しておらず、効果はあったものの限定的と言えます。4については、確かにありましたが、無駄な設備を造ってしまい、それが後々までのメンテナンスコストが重荷になる負の遺産を生み出してしまったという一面も看過できません。例えば、首都ブラジリアに新築したピカピカの巨大スタジアムは、当地には下部リーグのチームしかないため、大会後に活かされることはないでしょう。アマゾンの中心都市マナウスに新築したスタジアムも同様です。もうひとつ、ブラジルならではの開催効果として治安の改善があります。これは開催数年前から国全体の生産性を高める効果をあげています。

 

5. 来訪した外国人客のブラジルへの印象

サッカー観戦には期待しつつも、事前の報道などでブラジルという国へのネガティブイメージを持って来た人が多かったと思われますが、実際の最大公約数的印象は「思ったほど危ない国ではない」といったところです。ぼったくり価格と報じられていたホテル料金は、リオデジャネイロの有名なコパカバーナ海岸など一部を除いては通常料金の2倍以内に抑えられていました。(大きなイベント開催時に2倍程度の料金になるのは欧米では普通のことです。)国内フライトについては、フライトの1か月前くらいにスケジュール変更が時折あったり、直前予約で値段が3~5倍に高騰したりしましたが、定時運航率は80%以上がキープされ、全般的にスムーズな運行がされていました。バスや鉄道でのスタジアムへのアクセス、入退場の誘導、セキュリティチェックなどの現場のオペレーションも日本、韓国、ドイツと比べて遜色ありませんでした。心配された治安についても、置き引き、ひったくりの話はいくつも聞きましたが、観光客が凶悪犯罪に巻き込まれる事件はなかったようです。

 

6. ワールドカップ後のブラジル経済

ブラジル代表は準決勝で歴史的大敗を喫し、やり場のない国民の怒りは、沈静化していた大会開催そのものへの批判やルセフ大統領への批判を再燃させました。通貨レアルは下落し、株価も下がりました。10月の選挙で、貧困対策の継続を訴えた現職のルセフ大統領が再選を果たし、低迷する経済立て直しに向け、財政赤字削減やインフレ抑制など山積する課題への取り組みが求められているところです。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。
問題山積のブラジルですが、続けて開催されるオリンピックもブラジル経済に大きな影響を与える世界的イベントです。あなたもテレビやネットで、当分は世界の注目を集め続けるこの国のニュースを目にする機会が多くあるでしょう。そんな時に、この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

 

ブラジルワールドカップで見えた6つのブラジル経済事情

1. ワールドカップまでのブラジル経済
2. ブラジルの物価は高い
3. ワールドカップ期間中のブラジルの様子
4. ワールドカップ開催が与える国への影響
5. 来訪した外国人客のブラジルへの印象
6. ワールドカップ後のブラジル経済


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